冬の四重奏~深海のカンパネルラ~

LOCATE:全労済ホール スペース・ゼロ
2/9 19:00
2/11 17:00

ここでは主に「深海のカンパネルラ」について語ります。




「深海のカンパネルラ」は、「銀河鉄道の夜」をベースにつむがれる作品。
元々はほさかようさん主宰の空想組曲にて上演された演劇を30分にまとめたもの。

主人公りくは銀河鉄道の世界で自らジョパンニとなり、カンパネルラと共に、二人の時を過ごす。
カンパネルラはサザンクロスにたどり着くとジョパンニの元から姿を消してしまう。
するとりくは、最初から物語を紡ぐ、別れが訪れる前の幸せな時間を延々と紡ぐ。



「カンパネルラって、けんじくんのこと?」
自分自身を、そして命を失ったけんじを投影し、銀河鉄道の世界に入り浸るりくのことを心配した、ねえちゃんは問いかける。
りくは壊れてしまったと嘆くねえちゃん、自分は正常だ、わかってて妄想ごっこをやっているんだ、それのどこが悪いと取り合わないりく。
「けんじくんのことを思い出すのはいいよ。カンパネルラってさ、都合のいいやつ作ってんじゃん!」
「姉ちゃんに何がわかるんだよ。けんじのこと何も知らないだろ!  星野けんじ。
 趣味は天体観測
 一番好きな星はレグルス。
 得意教科は現代文。
 苦手教科は物理。
 部活は――
 …部活は…」
「水泳部でしょ。」
「うるさい!」
「夏の合宿にいって、練習の最中に波にさらわれて――  思い出すんなら…全部ちゃんと思いだしなよ!!」

ねえちゃんとの口論のあと、再び銀河鉄道の世界にのめり込むりく。
でも、思い出すのはカンパネルラのことではなくけんじのこと。
そこに現れた「先生」を名乗る人物。
「いいのかい?思い出して」
先生は語りかける。
「このまま銀河鉄道の世界に居続けることもでできる。すべてを思い出して忘れることもできる」
「ちゃんと思い出すということは、ちゃんと忘れるということだよ」
「1年後か10年後かわからない、だけど必ず忘れる。
 生きるってのはすべてだからね――
 都合よく思い出したり忘れたり。
 死に向かったり遠ざかったり。
 そういうの全部だ。
 生きるってことは生きるってことだからね――」
先生は誰に言うわけでもなくつぶやいた。
「救いが書ければよかったんだけどね。カンパネルラは生き返りました!とか、ジョパンニは何もかも忘れて幸せに暮らしました、とか。でも、ウソは書けなかった――」
「キミは降りなさい――」


りくはちゃんと思い出す。
けんじと過ごした時間を。
りくとけんじの輝かしい時間、そしてそこに待つのは永遠の別れ。



公演から1週間ほど経つわけですが、言葉や憧憬が浮かんでは消え、その繰り返し。
それほど印象的な作品でした。


小西成弥くん。
ほさかさんが彼のことを「感受性の塊」と表現されていましたが、本当にそういう表現がぴったり。
悲しみの深さだったり、やるせなさだったり、全部気づいているけど気づいていないふりをしていたり、細かな一つ一つを受け止めて全身で表現して。
若者らしい繊細さとみずみずしさを表現されていて、彼が真ん中に立つことで、他の役の在り方が生きるという印象を受けました。

大野瑞生くん。
この物語の絶望でもあり希望でもある、そんな明るいけんじを好演。
自分自身は死んでしまっているのに、それでも明るさを失わず、りくにとってまさに「レグルス」のような、太陽よりも輝いてりくを照らすような、「安心して忘れなよ」と言っているかのような最後の別れのシーンでのふっと笑った顔がとても印象的で。

田上真里奈さん。
車掌のときの朗々としたアナウンスはよりりくの心情を際立たせていたし、姉:ひみかのときの、りくを心配し伝えたい言葉や想いが届かないそのもどかしさというのがこちらに伝わってきて。
「思い出すなら、全部ちゃんと思いだしなよ」
このひみかのセリフは、以前空想組曲で上演した際には「思い出すなら、全部ちゃんと思い出せよ」だったらしく、昨年のリーディング公演「三四郎/門」で田上さん演じる美禰子を代永翼さんが「どこか優しさがある」と表現していましたが、田上さんの柔らかさと声力の強さから、どこか柔らかい台詞回しにしたのかなぁと。
この作品内で唯一の純粋な二役、どちらもどちらで違っていてすごいなと思いながら観ていたら、最後の最後の表情が、車掌なはずなのにひみかがオーバーラップしてきて思わず驚くなど。

先生役の富田翔さん。
本当にこの先生の言葉一つ一つがとても素敵で、じんわりと胸に染み渡る声色で、「ちゃんと思い出すということはちゃんと忘れること」「生きるってのはすべて」「生きるってことはいきるってこと」という名言の説得力、そこに溢れる優しさがぎゅっと凝縮されていて、あ、この朗読劇で素敵な役者さんに出会ってしまったと。
きっと、先生が紡いだ言葉はこれからの私にとってとても大切な言葉になるのだろうなと思います。


また、役者さんだけでなく、ほさかさんの演出も見事で。
この「深海のカンパネルラ」という作品は、朗読劇ではなく、完全に演劇でして。
朗読劇のためにある手元の台本も、役者の声を拾うマイクも、SEも、舞台セットも、照明も、すべてが演劇をやるための「仕掛け」
台本の開閉で場面転換を示唆したり、マイクのON・OFFで銀河鉄道の世界と現実世界の違いを表現していたり。


この作品にこのタイミングで出会えてとてもよかった。
私が観たのは小西成弥、大野瑞生、田上真里奈富田翔の回のみだったのですが、正直なところ大平峻也くんの回も観たかった。。。 DVDが出る頃なのか、何か語りたくなったらなのか、また語ってしまいそうな予感しかしない。