砂岡事務所リーディング公演「独立記念日」Vol.2

LOCATE:CARATO 71
2/3 瀬戸麻沙美田上真里奈木村良平、福井貴一

2/4 石川由依井上麻里奈代永翼、福井貴一






独立記念日から前回と同じ作品の朗読。
しかし、読み手によってこちらの受け取り方が違ってくるのだという驚きがあり、朗読劇の奥深さを感じました。
また、「声優」と「舞台俳優」の「どう伝えるか」というアプローチが全然違って、特に2/3公演が面白かったです。



  • 川向うの駅まで
    故郷を離れて、あこがれの川向うの街での生活を始めるお話。
    隣町に対するあこがれ、地元に対する鬱屈(というと少し言いすぎかな)、最初はとても希望に満ちあふれているのだけど、あこがれの街にはその街の現実があって、社会人という現実もあって。
    この話は石川由依さんがとても似合う話だと前回から感じていて、今回もやはりこの話が似合うと。
    石川さんってやっぱどこか明るいし、「自分の意志」というのをすごく感じさせる女優さんだと感じていて、こんな言い方あれだけど、とても「劇団ひまわり」出身な声優さんなのだと思わずにいられない。 押し寄せる現実、ちょっとしたつまずき、一人になって初めてわかる身近な人の温かさというのが、明瞭で美しい響きで紡がれて、少しせつないお話なのにどこか爽やかな印象で、導入部として素敵。

  • 月とパンケーキ
    このお話に関しては、田上真里奈さんが素敵すぎた。
    Vol.1の高橋未奈美さんも、Vol.2の井上麻里奈さんも、割と情感豊かに読むタイプの読み手だったので、こちらの感情も読み手の感情に流されていた印象があるのだけど、田上さんは敢えて読み手としての感情は抑えて俯瞰的に淡々と読み上げ、聞き手側に気づきを与えるという新たなスタイルに驚き。
    とはいえ、平坦な読み方ではなくて、そこは舞台役者さんだなぁと感じたのは「共有したい画」というのは声に、表情に、身体に、そして纏う雰囲気に表現されていて。
    それによって、主人公の微妙な心の揺れというのは確かに伝わってきて。
    そうか、このお話は「小さな幸せを幸せと気づけなかった女性」のお話で、失った後にそれに気づいて、だから「涙は一粒も流れなかった」なのだと。
    その象徴である「パンケーキ」をきっかけに 彼女の小さな幸せが始まって、小さな幸せに気づき前を向く、女性の物語なのだと気づけた。
    敢えて読み手に委ねることでその世界へ明瞭さを与えたアプローチは素晴らしいの一言です。


  • 雪の気配
    このお話はきっと受け手が年を重ねる毎により味わい深い物語になるのだろうと思っているのだけど、このお話においては、最年少瀬戸さんの演技が素晴らしい。
    母親の営むスナックを手伝う娘(チカ)。
    チカはスナックで繰り広げられる現実を目の当たりにし、そういう商売をしている母親に嫌気がさす。
    母親から離れたい一心で大学受験に打ち込み、フランスへ留学し――
    チカが辿り着いたのは、母親と同じお酒の世界だった。
    すこしギスギスした親子関係な回想の中で、親子の温かさを感じた印象的なホットワイン
    様々なスパイスが入ったホットワイン
    「人生、甘くない。苦いし辛いし酸っぱいし、けっこうとんでもない。でも、そういう味をちょっとずつブレンドするからこそ、美味しくなるのよね。」
    このフレーズを母親への愛おしさを込めつつ、母が作ってくれたホットワインのように雪の季節にじんわりと暖かくさせるこの情感を表現できる瀬戸さんの繊細な表現力が光っておりました。


  • 冬の花
    このお話、前回のみーながすんごい良くって、その印象が残っているからどうかなと感じていたのですが、井上麻里奈さんの感情とリンクして思わず泣きそうに。
    主人公は高校教師で、自分の担当するクラスにイジメがあってそれに気づきながらも、いじめがあることをタブーとしている学校、言い出せずにいる主人公。
    そんな中いじめられていた「マキ」が自殺未遂を図ってしまう。
    主人公もまた、かつてはイジメを受けていた側で、彼女の恩師から差し出された一冊の詩集によって現在がある。
    「ねぇ、生まれたんだからさ、死ぬまでは生きていこうよ」 主人公はマキに願いを込めてメールを送る。 「なんでかかな、私、生まれてきちゃった。でも、生きていくかな、とりあえず死ぬまでは」 そうマキからメールの返信があったとき、主人公の感情とリンクしていた私は心のなかで同じくガッツポーズ!!
    思いが伝わったこの時の嬉しさが、麻里奈さんの声に、そして一粒の涙にこもっていて、その美しさに思わず見とれてしまいました。


  • 川面を渡る風
    全作品とリンクする、総括的お話。
    個人的にはここは男性陣の演技が印象的で。
    恋に敗れた主人公を支えたケンちゃん、そして、独立した娘に迷惑をかけまいと、自分の病気をずっとひた隠しにしていた父。
    木村良平さんが演じるケンちゃんは少し照れ屋ではにかみ屋、じんわりとした優しさ、包容力がとても印象的。
    代永翼さんの演じるケンちゃんはどこまでもまっすぐ、そしてすごく献身的。
    全然違うタイプなのだけど、そもそも主人公を演じる瀬戸さん石川さん自体がこれまた全然違うので、この収まりかたはとてもしっくり。
    そして2公演唯一出演されて、見守り大きく包んでいた父親の福井貴一さんはそれぞれの役者さんに寄り添う演技がとても印象的。
    前者では少しぶっきらぼう、後者では少し気難しい、けれども娘に向ける眼差しは愛にあふれていて、その大きな愛があったからこそ、主役である女性陣二人の声を揃えての「独立記念日!」が希望をもった響きとなったのかなと。





本当、素敵な時間でした。
前回も今回もTwitterでつぶやいた気がしますが、独立記念日を観た後はなぜか閑静な代官山を一歩一歩踏みしめて帰りたいとなります。
提示いただいたものをかみしめて帰りたくなるといいますか。
本編の感想はこれまでですが、この先は少し田上真里奈さんの演技について語ります。




今回、幸運にもプレリザーブ田上真里奈さんが出演される回のチケットを入手することができて、実際に演技を拝見したのですが。
田上さんってやはりとても「演劇的」なのだなぁ、と朗読劇にて感じた次第です。
アプローチが、表現したい画はこれで、自身が持つ性質・能力の中でどう表現するのかということを常に念頭に置いている気がします。
声優さんは色とりどりの声音も武器に表現をしてきますが、田上さん自身はどちらかというと声色を変えるというよりは、自分自身という軸があってそこから向き合う役に合わせた演技をするといいますか。

なので、「月とパンケーキ」、「真冬の花束」で、自分自身の声で演じているにもかかわらず、たしかに違う人物像が想像され、だけど田上真里奈らしさも感じられるというなんとも不思議な感覚になるのです。
考えれば、これまで演じた役も、全然方向性がちがうのに、田上真里奈さんを真ん中に置くと不思議と腑に落ちるな、と。

以前、植田圭輔さんがP3WMのあとのうえちゃんねるで田上さんのことを「舞台ならでわ」「届ける気持ちがすごい強い女優さん」と評していて、あ、すごくそれわかるとなったのを思い出しました。
その中で「キャラクター以上の感情を出してくる」といった点は今回の朗読劇では敢えて抑えられていて、どうしたら伝わるのかという検討をした結果、キャラクターの感情から離れたところからの演技をしてくるんだという発見がありました。
今回田上さんはものすごく難しさを感じていたようなので、ひょっとすると模索した結果の「田上さんの新たな表現の発明」に至ったのではないかな、と感じる次第です。
やっぱり田上真里奈さんって面白い。
彼女自身がまだ見つけられていない側面があって、空白や遊びを感じられて、まだみぬ「田上真里奈」さんを想像してしまって、ワクワクが止まらないです。
しばらくは「田上真里奈」フィーバーは止まらないんだろうなぁとおもいつつ、今回更新はこれにて(唐突)